概要
○11月23日、1997年に和歌山県太地で捕獲された5頭のシャチに関する「学術研究」の10年目の節目としてのシンポジウムが東京海洋大学で開催された。
◆97年捕獲のシャチは「学術目的」の特別捕獲であったがその研究成果は一般に公表されてこなかった。
それを10年の成果として発表し、あわせて日本沿岸におけるシャチの動向を知ろうというのがその主旨であったが、
・第1部の座長である大隅清治氏は太地くじらの博物館の
名誉館長
・第2部の座長である吉岡基氏三重大学教授
・第3部の座長の内田詮三沖縄美ら海水族館館長は太地くじらの博物館の顧問
・当日は、演題正面の水産庁担当者の隣に、太地町長の姿も見えた
などから、私たちはこのシンポジウムが昨年から動き出したシャチの新たな捕獲計画にお墨付きを与えるためのものと推測している。
詳細
○第1部は野生下におけるシャチの動向と生態について、遠洋水産研究所の宮下富夫、岩崎俊秀両氏が発表し、シャチの社会史の遺伝学的研究の紹介を日本鯨類研究所の上田真久氏が行った。
・大型鯨類の目視調査に伴うシャチの目視調査結果では、日本沿岸のシャチは北海道周辺以北では比較的発見率が高いが、北緯40度以南の太平洋側では発見率は低い。しかし、写真による個体識別やバイオプシー調査などはほとんど行われていない。
・発見率の高いカムチャツカ海域などのロシアとの連続性など不明で、個体群の動向や餌生物などなにもわかっていない。
・一方で、捕獲が期待されている太地沖では、その発見例は少なく発見周期は定期的ではないことから、同海域での非定住が示唆された。
・国際的には認知されているシャチのエコタイプによる分類などは、海外の研究報告として付け加えられたものの、日本における調査・研究にどれほど活かされるかはまだ不明である。
ということで、
◆今後の課題として出されたものは
・シャチの系群動向
・餌
・社会構造
要約すればエコタイプということになろう。
こうした状態では資源としての評価は早期であることという発言もあった。(学術的な捕獲は別とされた)
○第2部はまずこれまで繁殖実績のある鴨川シーワールドの繁殖研究の発表。飼育下におけるシャチの性成熟と血中ホルモンの変動など、6回の妊娠、5回の出産を通しての発表となった。
○1997年捕獲個体に関しては5頭の飼育にかかわった3館と名古屋港水族館がそれぞれの発表をわかちあった。
・シャチの捕獲と輸送(太地)
・餌と環境、疾病(アドベンチャーワールド)
・ホルモン動向(伊豆三津)
・健康管理とエンリッチメント(名古屋)
と飼育技術の向上に関してとかなり限定的なデータで、さらにブリーディングローンで名古屋港水族館に貸し出されているクーに関しては「繁殖」が目的だということだが、その見込みや具体的な方針に関しての会場質問には明確な答えがなかった。
◆今回の報告では、飼育下のシャチ研究はまったく沿岸シャチの生息状況解明に貢献しないということが明らかになった。
◆また、学術捕獲での許可のはずが、当該園館の連携は最近まで行われず、計画性をもって研究が行われた形跡はない。
◆さらに、現段階においても、将来的なビジョンを持った研究計画という名に値するものは見当たらず、シャチの個体群に与える影響についても全く考慮されていないことが明からである。
こうした中での新たな捕獲は、むしろ生態解明へのダメージになるだけであることは容易に予想できる。
第3部は、公募のケーススタディ発表。
○演目は
・北大西洋鯨類捕獲調査で発見されたシャチ
・小笠原諸島海域におけるシャチの出現および科学情報の集積状況
・北方四島におけるシャチの出現分布と組成
・北海道羅臼のマスストランディングしたシャチの胃内容物
である。
・鯨類捕獲調査におけるシャチでは、ニタリクジラを襲うシャチの報告があった。
・小笠原諸島においてもシャチの出現は少ないながらもあるが、漁師による目撃情報のみで写真などの情報が得られていないとの報告。
・北方四島では、海生哺乳類の分布に相関がありそうであることが報告された。
・2年前にマスストランディングした羅臼のシャチがアザラシを主に食べていたらしいことの報告があった。
◆1997年捕獲シャチの嘔吐物がミンククジラの皮脂であったことなどを総合すると、現在日本周辺海域で発見されるシャチは海生哺乳類食であるかもしれない。
◆これは、いまのところ、沿岸域での定住の事例が報告されていないことや小笠原海域や、和歌山県周辺でも移動中を目撃されているらしいという結果から、移動型シャチの可能性が高い。
第4部の総合討論はかなり時間が押し迫っていたために、加藤教授
が発言者を指名する形になった。
○その中で、今後の水族館における研究は繁殖(名古屋港水族館のクーの繁殖)にかなり絞られる結果となったが、人工繁殖なのかオスの導入かということに対する結論もなく、かなりあいまいな形となった。
○そのなかで、加藤氏の「水族館は種の保存と関係がないのではないか。むしろ経営の問題ではないか」という視点と
○大隅氏の「シャチはたくさんいるのだから、利用するのが過去10年を無駄にしない方法。水産庁は努力を」という発言が際立っていた。
◆しかしながら、このような状況で、またしても学術採捕が認められるなら、種の存続、生物多様性保全という観点からも、日本の鯨類研究者、および関係者の質が世界に問われることになるだろう。